憎しみの連鎖

「ダダーブが大変な事になっています」とモウリドから報告をメールで受けたのは、12月22日。私は、休暇で妻の実家の韓国にいた。キャンプの市場などで2日続けて地雷が爆発し、警察官1人が死亡、数人がケガをした。これで、1カ月半で地雷の爆発は計6件、犠牲者は警察官4人に。しかも、これまでの爆発は新しく開かれたキャンプやキャンプ外の道路上など、一般の難民が通るところではなかったが、今回爆発したのは、キャンプの市場や食料配給地の近くで、人が賑わうところだった。私たちの工場からも500メートルほどしか離れておらず、勤務時間中の出来事で、モウリドは「従業員たちも地雷の音を聞き、遠くから煙が立ち込めるのを見て、パニック状態に陥っていました」と報告した。パトカーがひっくり返された写真と、地雷で深さ1メートル以上の穴が開いた写真が送られてきて、私は背筋が凍った。

 モウリドが言う「大変な事」は、これで終わらない。爆発の次の日から、ケニア警察による難民たちへの取り締まりが一気に強化された。「テロリストをかくまっているのは誰だ!」と、同僚4人を殺された警察官たちが、難民の家や市場の店、一軒一軒を回り、お金などを取り上げ、建物を壊し、難民に暴行を加え、「犯人はどこだ?」と尋問を始めたのだ。

 けが人の数や被害額などの真相は全くわからない。それでも、警察官がモウリドの家にも来たこと。モウリドはライフラインの運営資金を持って必死に逃げたこと。難民キャンプの外に逃げ出す難民までいたこと。モウリドが送って来た写真に、背中に棒か何かで殴られた痕がある男性がいたこと。モウリドが、従業員の安全が保障できないため、工場を3日間閉鎖すべきだと提案してきたこと。そして、モウリド自身が、キャンプの外のホテルへ一時避難したことなどを考えれば、警察の取り締まり、いや人権侵害は、相当の範囲で行われたことが伺える。

 国連やNGOも一時活動を自粛。国連から「特に外国人スタッフは、ダダーブの国連の敷地外からは滅多なことがない限り出ないよう」という要請も来た。モウリドの要請を受け、ライフラインは、クリスマス休暇含め6日間、工場を閉鎖した。これにより、支援を必要とする難民への支援が再び滞る。そして、人の安全を守るはずの警察が、難民にとって、最大の脅威となってしまったことは、これからのキャンプの運営に、大きな影響を及ぼすことは必至だ。

 モウリドは「地雷の爆発を間近で経験し、警察からの脅威にさらされ、精神的に参りました。私たちは戦争や飢饉から逃れ、ケニアに安全を求めてやって来た。そして、その安全を守るはずの警察が信用できないのだとしたら、私たちのことを誰が守ってくれるのか?」と嘆いた。

 就職することはもちろん、十分な水や食料を得ることさえ難しい難民キャンプで、必死に築いてきた生活基盤が「テロとの戦い」の大義名分のもと、一瞬にして壊されるのだとしたら、そこに残るのは憎しみの連鎖でしかない。一体、私たちは何と本当に戦っているのか、何と戦うべきなのか、わからなくなる。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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