主任との確執、再び

これまで何度か対立してきた工場Aの主任、ラホ(仮名)との関係に再び亀裂が入った。

ある従業員が「ラホは、1月、3回遅刻してきたのに、出席簿には、遅刻マークを付けなかった」と告げてきたのだ。

報告書に偽りの記載をすれば、即、停職処分。しかも、主任がそれをやっているとすれば、深刻な問題だ。報告書は、毎日、工場に行けない私と従業員との信頼関係を保つ唯一の代物だ。それの信頼がなくなれば、工場の運営はやっていけない。

私は、別の従業員に個別で「ラホが3回、遅刻してきたと聞いたのだけど」と尋ねたら、「はい」と即答してきた。その従業員は「絶対、私があなたに告げ口したこと、誰にも言わないでくださいね」と言ってきた。ラホからの復讐を恐れている。

2月1日、ラホはこの日も、遅刻してきた。8時出勤なのに、8時5分に工場に無言で入ってきた。他の従業員は全員出勤してきている。

モウリドとラホの3人だけで、話し合いを始めた。ラホは日常会話レベルの英語は話せるが、自分より英語を巧く話せる人がいる場合、ソマリア語で話す。モウリドが通訳に徹してくれた。

私: 今日は遅れてきたけど、どうかしたの?
ラ: ちょっと、子供の世話に時間がかかりました。
私: 複数の従業員が、1月に、あなたが3回遅刻したと告げてきました。
ラ: (首を振りながら)よく、覚えていません。
私: 何を覚えていないの?
ラ: 普段、私は、8時前に来て、他の従業員が時間通りに出勤しているかチェックしています。

私:1月の出勤簿を見ると、あなたの欄には遅刻マークがないのだけど、これは、あなたが、毎日、時間通りに来たということではないの?
ラ:私は主任として、他の従業員が時間通りに来ることを確認しなければなりませんので。
私は、質問への答えが返ってこないことに、不信感を募らせた。

私:出席簿に遅刻マークがないなら、「毎日、時間通りに出勤しました」と断言はできないのかな?
ラ:、、、よく、覚えていません。もしかしたら、私が午前8時に門を入って、門番と話をし、工場に入ったのが8時5分だったから、その従業員たちは私が遅れてきたと勘違いしているのかもしれません。

門と工場は約70メートルの距離があり、確かに、工場の中にいたら、門に誰かいるか見ることはできない。それでも、私は、不信感を払拭できなかった。

私:あなたが言うように、主任の任務は、他の従業員が時間通りに来るかどうかチェックすることです。だとしたら、主任であるあなたが、午前8時丁度に門に着いたら、門番と話すより、まず、工場に顔を出し、従業員の出欠確認を優先しないのでしょうか?

ラ:、、、、。

私:あなたが遅刻した場合、あなたは自分の出勤欄にどう記入するのですか?

ラ:遅刻、と記します。
私:主任であるあなたが、遅刻するようなことがあると、従業員全体の規律に大きく影響します。さらに、遅刻した時、それを出勤欄に「遅刻」と記載しなければ、停職処分に値する大きなルール違反です。
ラ:私は2007年以来、この工場の発展のために一生懸命働いてきました。なのに、なぜ、工場長は私に対していつも厳しいのか理解できません。これまでも、何度か、工場長から厳しい応対をされた記憶があります。一つでも小さな失敗があれば、その失敗に対し、工場長はとても敏感に反応します。工場長に告げ口した従業員は、私が主任であることを良く思っていないから、話をでっち上げているだけです。そんなでっち上げた話を基に、私が非難されるなんて心外です。

  ラホの私に対する非難は、長々と続いた。小さな失敗も細かく指導するというのは、案外、当たっているかもしれない。でも、今回のケースと、それとを混同してはいけない。

私:あなたの正直な気持ちを伝えてくれてありがとう。お互いの胸の内を明かし合うことは大切だと思います。ラホに一つ尋ねます。工場の従業員が、あなたに「別の従業員から殴られた」と告げてきたら、どうしますか?その別の従業員に事情を聞きますか?それとも、何もしませんか?

ラ:事情を聞きます。

私:私が、今やっていることは、それと同じではありませんか?
ラ:告げ口した従業員たちに裏切られた思いで、気分が悪い。
私:その従業員たちだって、私に告げ口して良い思いはしていないでしょう。私だって、今、こうしてあなたに事情を聞くのも、良い気持ちにはなりません。あなたが立派な主任だと思っているから。皆、悪い気分です。

ラホはふて腐れた表情で、頷き、退出していった。これから、ラホが内部告発者の摘発を始めるのか、それとも、勤務態度を改めるのか。

工場からの帰り道、モウリドと二人きりになり、尋ねてみた。
私:私はラホに厳しすぎるのだろうか?
モ:ラホは、工場長が、ラホを主任の職から外そうとしていると思っているのかもしれません。そのための「理由」を探していると。
私:でも、悪いことは悪いと言わなければならないし、難しいな。もっと、褒めてあげれるところは、褒めてあげればいいのかな?
モ:そうですね。

小さなミスでも、指摘してあげることで、従業員がそれについて考え、自分たちで対策を練って、彼らの能力向上につなげたかった。でも、あまり、小さなミスばかり指摘し続けることで、彼らの能力以上のものを要求しているのかもしれないという不安もある。

例えば、今日のラホのやり取り。「門番と話したから遅刻と勘違いされたかもしれない」、という彼女の言い訳に対し、私がしたように彼女の論理的思考に疑問を投げかけるか、「そうか」と納得してあげるべきか、選択は分かれるだろう。後者をとって、彼女との人間関係を優先するか、前者をとって、彼女のコミュニケーション力や勤務態度を試すべきか。ただ、前者をとることにより、私が、小学校4年で中退したラホが持ち合わせている能力以上のものを要求しているのだとしたら、それは彼女にとっても酷なことなのかもしれない。

そんなことを考えながら、この工場を運営していく難しさを改めて思い知った。
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ルールはルール

ルールはルールとちゃんと線を引かないといけないと思います。
今、ここで、(厳しすぎたかな?)という気持ちで、彼女に甘えを見せたら、ほかの従業員はもう、ついてこないでしょう。

家政婦として働く、メイドですら、時間厳守できますからね~♪
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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