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従業員による初めてのボイコットー第1話ー


ラホとの対立から一夜明けた朝、モウリドから電話があった。「ラホが工場長から公平に扱われていないと言って、今日は出勤しないと言ってきました。そして、工場にいる副主任のキモからも、他のスタッフ全員が出勤はしたが、仕事をせず、ただ、座って話しているだけのようです」との報告だった。時間は午前8時半。勤務開始時間を30分過ぎている。この日は工場に行かず、事務所で1月の報告書作成に費やそうと思っていたが、予定を変え、モウリドと工場へ向かった。

向かう途中、モウリドは「ラホが仕事に来ないから、他のスタッフ全員も仕事をしなくなるなんて、おかしい。ラホが圧力をかけたとしか思えない」と言う。私は「何の説明もなしに仕事をボイコットするのはルール違反だ。ラホに電話して、私が工場に向かっているから、説明に来るように伝えてくれ」とモウリドにお願いした。モウリドはすぐ電話をし「病院に行くから、少し遅れるとのことです」と話した。

工場に着くと、ラホ以外の従業員全員、私服姿で、工場の前の木陰に座っていた。私は「ラホが仕事に来ないから、あなたたちが仕事をボイコットする理由にはならない。あなたたちは、ラホと契約を交わしたのではなく、私と交わしたのだから、何か不満があるなら、私に話してください」と伝えた。

従業員のリーダー格のモハメドが「私たちはこれまで皆を信頼し合って仕事をしてきました。でも、今朝、ラホから電話があり、昨日、工場内の複数の従業員がラホの失態について工場長に密告したことを知りました。ラホは、私たちのせいで、仕事に行くことができなくなったと嘆きました。私たちの中に、密告者がいるということに、私たちは耐えることができません。皆、お互いを疑い合っています。これでは、仕事はできません」

私は、「ラホについて問題が、他の従業員から指摘されたのは事実です。それについては今調査中で、私はラホに何の罰則も与えていない。昨日、ラホからは事情を聞いただけです。それだけのことで、あなたたちが仕事をボイコットする理由がわからない」

女性のミンシャが「他人について誤った情報を流すのはいけないと思います」という

私は「その情報がどんな情報か皆さん知っているのですか?」と尋ねると、皆、首を振った。「ではその情報が正しいのか間違っているのか、ここで判断するのはやめましょう」と伝えた。

私は「皆さん、自分が工場長で、従業員が、他の従業員について問題を指摘してきたら、その従業員に事情を聞きますか、聞きませんか?」と尋ねたら、皆「尋ねる」と答えた。「それでは、何が問題なのですか?」と聞きただすと、モハメドは「誰からもわからない情報によって、私たちは混乱している。お互いへの信頼がなくなった。だから、ラホも仕事に来れなくなった。一体、この中の誰が密告したのか、皆、知りたがっている」と言った。

私は「どんな組織、社会でも、内部密告者というのは大切な存在です。組織の中にある問題をあぶり出し、その問題を対処することで、その組織は成長していくものです。そこで大事なのは、この内部告発者の秘匿です。この存在が明らかにされたら、密告によって危害を被った人から復讐されかねないため、彼らのプライバシーを守ることは大切なのです」と説明した。

私が一生懸命話している間、後ろで従業員の1人が「くす」と笑うのが聞こえ、頭に血が上った。「何がおかしいのですか?」とその従業員を睨みつけた。「あ、ちょっと、携帯電話がなったので」とその従業員は弁明した。仕事をボイコットされ、従業員全員を敵に回しているような感覚になり、私も頭が混乱していた。

モハメドは、さらに続けた。「私たちには、工場長の下に、主任がいて、副主任がいる。何か問題があれば、従業員は直接工場長にではなく、主任や副主任に伝えればいい。情報伝達のはしごはしっかり守らなければならない」と言う。

私は「昨年、前任者のJから仕事を引き継いだ時、別の工場の主任はとても信頼できる人だと聞いていました。だから、彼を私も信頼し、彼からだけの情報に頼って、工場を運営していました。しかし、数ヶ月後、その主任が、他の従業員を『犬』と呼んでいたことがわかったのです。私が、主任からの情報だけを頼りにしていたばっかりに、主任が犯した従業員に対する侮辱行為を見抜くことができなかった。モハメドに尋ねますが、あなたが、主任から犬呼ばわりされたら、それを工場長に伝えようとは思いませんか?」。

モハメドは「伝えます。でも、私は、名前を公表して、皆の前で伝えます。工場長は、なぜ、昨日、ラホに個人的に伝えたのでしょうか?皆の前で伝えれば良かったのではないでしょうか?」

私は「それはラホの名誉を傷つけることになります。まだ、その情報が正しいのか、間違っているのか、わからない状況で、それを公表することはできません。それに、皆、モハメドと同じ様に名前を公表して密告することは難しいと思います。例えばソマリアの武装勢力から人権侵害を被り、それを新聞記者に伝えるとした場合、あなたは実名を公表できますか?」と尋ねた。

従業員は「それと、これとは話が違います」と言う。私は「根本的な概念は同じです。今回だって、名前を公表することで、その人たちが、復讐されないとは限らない。だから、もし、私が名前を公表するべきだと考えるなら、私たちは一緒に働くことはできないと思います」と強く言った。

ここで、遅れてやってきたラホが輪に入ってきた。ラホは、いつもの様に、長々と話し始めた。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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