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従業員による初めてのボイコットー第2話ー

ここで、遅れてやってきたラホが輪に入ってきた。ラホは、いつもの様に、長々と話し始めた。

1.昨日、工場長に呼ばれ、「1月に3回遅刻したのに、出勤簿に遅刻マークを記さなかったと、他の従業員から聞いた」と言われた。私は、「何も覚えていない」と伝えたが、繰り返し尋問を受けた。工場長から「もしこの密告が本当なら停職処分だ」と脅された。誰が流した情報かもわからないのに、こんな風に脅されるのは心外だ。
2.工場長は、昨年、この工場に来てから、ずっと、私のミスを細かく指摘し、厳しすぎる。
3.先ほど、別の主任が「犬」と従業員を呼んだことを例に出しましたが、ああいう言い方をされると、自分が他の従業員を侮辱したように思われ、心外
4.昨年、新しく雇った副主任のアデンが、工場長が私について悪口を言っていることを聞いた。
などなど、まくしたてるように言い続けた。
私は、一つ一つ、メモに取りながら、答弁した。

1.犬については、単なる例です。情報の流れをすべて主任に任せた場合のリスクについて説明したかっただけです。もし、私がこの例を出すことで、他の従業員が、ラホと照らし合わせて考えてしまったのだとしたら、謝ります。

2.次に、昨年の副主任のアデンの件ですが、彼からは、ラホ自身が私について良くない話をしていたことを聞いています。だから、これについてはイーブンですね。

3.私が、あなたに対して特に厳しくしてきたという指摘ですが、この工場は私が来た当時、問題がたくさんありました。報告書に偽りの記載をした者もいれば、でっち上げ話で他の従業員を侮辱したものもいれば、2ヶ月間の無断欠勤もありました。こういった問題に取り組むためには、私とあなたで協力しなければいけない。それについて、あなたに話す時、もし、私があなたを責め立てているような言い方だったとしたら、それについては謝ります。

4.最後、私が昨日、あなたを脅したということですが、昨日の会話のやり取りをすべて覚えているので、皆と共有させてください。(「主任との確執、再び」2月2日のブログに書いたことを一つ一つ説明した)。私は、ラホが「私は遅刻していません」と断言していれば、それ以上、事情を聞くことはしなかった。でも、ラホは『覚えていない』と言ったから、色々、質問しなくてはならなかった。こちらに脅すつもりは全くなく、もし、ラホがそういう風にとらえてしまったのだとしたら、謝ります。(これで3回目の謝罪)

それに対し、ラホは反論した。「私たちは一つのチームとして、真摯に仕事に取り組んできた。にもかかわらず、従業員が直接、工場長に情報を流すシステムは、チームワークを台無しにする。ライフラインは、アメリカに本部があり、工場長がいて、アシスタントのモウリドがいて、私がいる。情報伝達のはしごがしっかりあるのに、それを飛ばして情報が流れる場合、従業員同士に不信感が生まれる。工場長は私たちを信用してないのではないか。従業員が組織のトップの為にスパイ行為をするなんて聞いたことがない。工場長が敷いたシステムは良くない」

私は長い議論は嫌いだった。要するに、ラホは、彼女を通さずに、従業員が私に密告したことに対し腹をたてている。それに対し、私は何の躊躇もなく、真っ正面から 、ゆっくりとした口調でラホに質問した。「あなたが工場長で、主任が従業員を誰も見ていないところで殴ったと仮定しましょう。この殴られた従業員は、工場長に直接このことを報告できるのか、それとも、この主任を通さなければならないのか?」

 ラホは「直接、報告できると思います」と答えた。

 私は続けた。「それで、報告を受けたら、あなたはどんな行動をとりますか?」

 ラホは、「主任に事情を聞きます」

 私は「それは、私がした事と違うのでしょうか?」

 ラホは、また、これまでと同じ議論を繰り返し始めた。

 私は、彼女に真っ向から質問をくりかえした。「つまり、あなたは、状況によっては、従業員が、主任を通り越して、工場長に直接報告することは仕方ないと思っているということでいいのですね?」

 モウリドがソマリア語に訳してラホに質問するのだが、何やら、何度も何度も、ソマリア語でやり取りが続き、モウリドから英語での返答が返ってこない。「ラホが質問をはぐらかすのです。彼女がこれまで積み上げてきた功績とかについて話し始めるので、私が、繰り返し、質問に答えるように言っているのです」と言う。

結局、10往復近くソマリア語でやりとりが繰り返された後、ラホは「主任に関わる問題の場合、従業員が工場長に直接報告するのは仕方のない事だ」と静かに頷いた。

そこで私は「じゃあ、今回の問題は一体何だったのですか?」と尋ねた。ラホは「私に言えないのなら、モウリドに報告することもできたのではないですか?工場長より下に、モウリドがいるのですから」と言ってきた。私は「私に報告されるのと、モウリドに報告されるのと、何が違うのでしょう?モウリドに報告がいったとしても、あなたに事情を聞くという意味で、結果は同じだったはずです。それに、今回の報告は、私とモウリドが両方いるところで行われました」と伝えると、ラホは、もう何も言えなくなった。

 私は「これからどうするのですか?」と尋ねると、ラホは「少し考えさせてください」と納得いかない表情で答えた。

 私は「もし、次、ボイコットするなら、その前に私に話をしてください」と全員にお願いし、会議をしめた。

 私は、お互いの和解のために「昼ご飯でも行きましょう」と誘ってみたが、反応がなかった。二人ほど付いてきたが、他の従業員たちに呼び戻された。「ここで、工場長と一緒にご飯を食べたら、密告者扱いされてしまいますからね。皆、恐れているのですよ」とモウリドが説明した。事態は、私が思っている以上に深刻なのだと悟った。

 毎日、工場に顔を出せず、言語の違いから従業員と直接会話を交わせない工場長にとって、内部密告者はとても大切な存在だと思っていた。従業員の規律を正すことや、従業員の中の人間関係を知る上で、欠かせない存在。それが、従業員同士の信頼関係を崩すというリスクは知っていたつもりだったが、組織が成長するためには、取らざるを得ないリスクだと思っていた。

しかし、ここでは、その考えが通用しない。ソマリア人同士の信頼関係を私は甘く見ていた。20年以上内戦状態のソマリアから国外へ逃れて暮らしているソマリア人は100万人以上と言われる。アメリカにいようが、ヨーロッパにいようが、ソマリア人専門の送金業者がおり、 電話一本で、お金のやり取りが瞬時でできる。20年間、中央政府が機能しないソマリアでは、家や家族をなくしても、政府から生活保護などを受け取る事はできない 。つまり、同胞内の信頼関係を頼りに、ソマリア人は生き抜いてきた。

 そのネットワークの延長上に私の工場もあった。ラホの親戚や知人が優遇して雇用され、従業員の信頼関係は絶大なものだっただろう。その中に、不信感を募らせたことは、従業員にとっては一大事だった。

 しかし、じゃあ、私には何ができたのか。密告があっても、それに対し、何の行動も取らないという選択はあり得たのか?行動を取れば、それは、自動的に内部密告者がいることをほのめかすことになる。モウリドに尋ねたら、「難しいですね。とにかく、彼らに、密告者が出ないよう、何かあったら、常に主任に報告し、できるだけ自分たちだけで解決する。解決したら、それを、工場長に報告するというシステムを奨励する。そうすれば、従業員たちも理解してくれるかもしれません」と言う。私は「ただ、今回みたいに、主任に対しての問題は、主任に報告はできないのでは?」と聞いた。「工場長ができるだけ、従業員間で情報を共有するよう奨励すれば、今回の様な密告行為が好ましくないという、彼らの考えを間接的に支持することになり、彼らも理解してくれるのではないでしょうか?」と言う。

私は、モウリドの存在を心の底から感謝した。彼は、私の発言を、何度も何度もソマリア語で話し、従業員が理解するまで話し続けてくれた。私以外全員ソマリア人で、仕事をボイコットし、今まで抱いた事のない疎外感があった。モウリドが中立を保ち続けて、ソマリア人社会の事情を酌みつつ、双方が理解し合えるよう、通訳に徹してくれたおかげで、何とか、自分の思いを伝えることができた。

私はモウリドに、「要するに、私が工場長としてした行為を論理的に非難することはできないが、結果的に、工場内の従業員の間にあった信頼関係に傷がついたことが一番の問題ってことだよね?」と尋ねたら、「そういうことです」と答えてくれた。

モウリドは「工場長の考えはもう伝わりました。ここからは、私に任せてもらえませんか?」と提案してきた。モウリドなら、ソマリア人社会の事情を酌んだ形での話し合いができるはずだ。すべて「論理」でしか説得できない私には無理だ。私は「頼むよ」と言い、「本当に今日はありがとう」と彼の右手を強く握りしめた。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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