なぜ、七厘を難民キャンプで配るのか

 2月中旬、シュクリ(仮名、20歳女性)は午後2時ごろから、いつもの様に、親戚の女性ら4人と薪を拾いにキャンプ周辺を歩き始めた。午後4時ごろ、背中一杯に背負うほどの薪が集まり、家に戻ろうとした時、50代の男性が斧を片手に走ってくるのが見えた。「なんで、よそ者のお前らが、薪を集めている?この泥棒ども!」。シュクリは、一緒にいた女性と二人で逃げ、他の2人は別方向に逃げた。

 斧を持った男性は、シュクリたちの方へ走って来た。シュクリは妊娠3ヶ月。突然パニック状態に陥り、数歩走ったところで、地面に前のめりに倒れ込んだ。意識を失ったシュクリを、男性は気にも留めず、別の女性を追いかけ続けた。その女性が、キャンプの住居地区に入った所で、男性は諦め、引き返していった。
別方向へ逃げた女性がシュクリを救護しに行き、男性に向かって「意識がない。助けて!」と叫んだが、「知るか」と男性はそのまま歩き続けた。

 シュクリは即死だった。パニック状態に陥ったことによる心筋梗塞なのか、病院で診断を受けた訳ではないから、はっきりとした死因はわからない。

 この事件は、私たちライフラインの活動の重要性を再認識させるものだった。シュクリを追いかけた男性は、ダダーブ周辺の村に住むケニア人。近年の難民の急増により、森林伐採に拍車がかかり、ヤギや牛などの家畜で生計を立てる地元住民の生活を脅かしていた。

 ダダーブ難民キャンプには元々三つのキャンプがあったが、昨年の飢饉で、さらに二つ増えた。が、その内の一つの「キャンピオス」キャンプは、未だにケニア政府から正式な承認を受けていない。これ以上、難民が増えることは治安悪化だけでなく、森林伐採により、地元住民の故郷を奪うことにもなるからだ。


 私たち、ライフラインは、七厘を配ることで、環境を守るだけでなく、難民たちがケニアにいる権利を守ろうとしている。しかし、残念ながら資金不足で、難民全員に七厘を配ることはできていない。食料、医療や教育に比べ、七厘は「緊急性」が低いと言われる。

 シュクリの夫、モハメッド(仮名、30代)は、「最高の妻だった。初めての子供を身ごもったばかりだったのに、本当に悔しい」と話した。シュクリの死について、私は、しっかり、従業員たちに伝えなければならない。彼らの仕事は、私のためでも、ライフラインのためでもなく、彼ら自身のためにあるのだということを、この事件が明確にしてくれるはずだ。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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