生まれて初めてのテスト

3月16、17日と従業員の能力診断テストを実地した。七厘、環境、そしてライフラインに関する知識を向上させることで、従業員の士気を高めるのが狙い。

昨年11月に、英語とソマリア語両方で約6ページの説明書を作成し、従業員全員に配り、半日かけて一つ一つ説明した。そして、テスト実地について発表したのは約2ヶ月前。4月末に全員の工場での契約が切れることから、「テストの結果が、契約更新するかどうかの参考資料になります」とプレッシャーをかけた。

そしたら、予想通り、従業員たちからは
「一度も学校に行った事がない私たちにテストをするなんて、あまりにも厳しすぎる」
「もう3年以上働いているのに、このテストの結果によって契約が更新されなくなるなんて心外」
「もう50歳過ぎて、新しい知識を覚えられる脳みそなんてない」
などと、不満が上がった。「一体、何点取れば、契約は更新されるのか?」などと聞いてくる者もいた。

私は「このテストが、契約更新を決める唯一の事項になるわけではありません。だから、何点取ったら大丈夫というラインはありません。後、皆さんが学校に行った事がないことは知っています。だからといって、新しい知識が学べないとは思えません。

皆さんは、これまで、何度、説明書を勉強しようと試みましたか?一度も試みないで、最初から「できない」と決めつけたら、あなたたちの能力はそれ以上伸びる事はない。『文字の読み書きができないから、じゃあ、この人たちには何の知識も与えないようにしよう』という上司と、『読み書きができなくても、頭で覚えることはできるのだから、根気よく教えることが大事』という上司、どちらが良いのですか?」と尋ねると、皆、迷わず後者を選び、渋々、説明書とにらみ合いをする日々になった。

情報化社会は、世界の文字の読み書きができない人たちを孤立化させる。ダダーブも無論、例外でない。昨年、国連に勤務していたころに私が実地した調査では、高等学校を卒業した者の9割が、援助団体から何かしらの研修を受けたことがあると答えたのに対し、学校に行ったことがない者に限ったら1割のみだった。雇用の機会だけでなく、特別な研修、訓練プログラムのほとんどが、文字の読み書き能力を前提としているためだ。

だから、私は、文字の読み書きができない従業員が大半を占めるライフラインで仕事をするのに大きなやりがいを覚えた。

私が工場長に就任した当初、七厘が薪を節約する目的で配られていることさえ知らない従業員がいることに驚いた。また、薪を節約する事が、環境保全につながり、さらには、ダダーブの難民と、周辺に住むケニア人たちとの関係改善につながることを知っている人は皆無だった。そして、「ライフライン」命名の意味を分かっている者もゼロだった。自分たちが作っている物が社会にどんな影響を与えるのか、自分たちが所属している団体がどういう哲学で活動しているのか知らなければ、その仕事にやる気を見いだすことは難しい。

従業員たちは、仕事が終わった後、文字の読み書きができる従業員を頼って、輪になって座り、説明書を一つ一つ読み合っていた。中には、森林や、薪などを絵にすることで、文字がわからなくてもわかる自分だけの説明書を作るものまでいた。先日のブログで紹介した従業員たちによる言語教室立ち上げは、このテストに向けての自習が引き金となった。

テストは全部で4問。
「七厘を受け取った難民が、七厘を使っても薪を節約できなかった。どんな原因が考えられるか?」
「ライフラインの活動目的は何か?」
「七厘を使うことで、どんな得をするか」
「ライフラインの活動と、昨年、ソマリアを襲った干ばつとはどんな関係があるのか?」

無論、すべて口頭による個別試験だ。その日は作業をストップし、全員を工場内に待機させ、1人1人外に呼び出し、試験に答え終わったものは、テスト問題が漏れないよう、そのまま帰宅させ、他の従業員と接触させないようにした。携帯電話はすべて保管させてもらった。

テストでは、モウリドが通訳を勤めてくれた。いつもの様に、質問の趣旨をすぐに理解してくれる従業員は少なく、モウリドが何度も何度も説明してから、的を得た答えがでてくることが多かった。皆、緊張した表情で私とモウリドの前に座り、質問にゆっくりとした表情で答えていた。私は、一つ一つ答えをノートに取り、各質問を10点満点で評価し、総合得点40点中、何点取れたか、試験が終わる度に教えた。

テストの結果は驚くべきものだった。従業員39人の平均得点が28点。7割を理解しているということだ。昨年11月に雇用されたばかりの文字の読み書きのできない女性従業員が35点を取り、高等学校を卒業した者と同等のスコアだった。また、女性の平均点が男性を5ポイント上回り、普段、料理で七厘とより身近に接することが有利に働いたと思われる。

何よりもショックだったのは、勤続年数にスコアが反比例していたことだった。20点以下は5人だけだったが、内4人が2007年から働いていた古株組だった。先月、雇われたばかりの片目が見えない男性でさえ27点取った。「古株の俺たちの契約が切れるわけがない」という事なかれ主義が蔓延していたとしか思えなかった。

従業員の中には、「私が35点も取ったなんて信じられない!」という者もいれば、「もう、ここ2週間は、ずっとこのテストの事だけ考えていました」という者もいた。ストライキで全面対決した主任のラホは、「今回のテストのおかげで、皆、文字の読み書きができなくても、新しい事を学べるということがわかりました。本当にありがとうございました」と私に礼を言った。
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 ほとんどの従業員にとって、生まれて初めてのテストだった。つまり、生まれて初めて、自分の知識が試されたということだ。これが、従業員たちにとって何か新しいに挑戦する契機になってくれたらと願う。
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プロフィール

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Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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