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悪人の立場で考える


3月31日に第3回合同ワークショップを開くことが決まり、各工場の従業員たちは劇や詩の発表の練習にいそしんでいる。29日、工場Bの進捗状況を観に行った。劇は「環境に関するメッセージを込めたもの」、詩は「ライフラインで働いて、自分にどんな変化が起きたのか」をテーマに、従業員たち自身で脚本を作り、練習してもらった。

まず、劇。難民女性が薪を集めに行くと、斧を持ったケニア人に襲われ、必死に逃げ切り、ライフラインから七厘をもらい、使用する薪の量を減らし、ハッピーエンドという話だった。
うーーん。単純すぎるし、ライフラインの活動をそのまま劇で紹介しているだけで、肝心の「ドラマ」がない。
私は、「皆さんはテレビでドラマとかは観た事ありますか?」と尋ねると、半分以上は首を振った。難民キャンプには映画鑑賞できるDVDシネマがあるが、お金に余裕がないと観に行けないのだろう。ドラマや映画を観た事がなければ、劇を演じたこともない従業員にとったら、とても難しい課題だったにちがいない。

私は、「劇というものは、何かテーマがあるのですが、今回の劇のテーマは何ですか?」と尋ねると、指導役のファラが「ケニア人と難民の相互理解です」と即答した。

ダダーブには46万人の難民が木々を切り、その木々を家畜の餌として生計を依存してきた周辺のケニア人の生活を脅かしている。ファラは、ライフラインが七厘を配ることで、森林伐採を抑制し、ケニア人と難民の関係を良くするという意味を込めたのだろう。

「でも、今の劇を見る人は、斧を持ったケニア人についてどういう印象を受けるでしょうか?」と私は尋ねた。「とても暴力的な人」と従業員たちは返答した。

「そうですね。とても悪者に見えました。か弱い難民が、悪者のケニア人にいじめられ、それを助けるのがライフライン、というシナリオですが、これだと、ケニア人と難民の相互理解を促進させるどころか、ケニア人に対するイメージを悪化させることにならないでしょうか?」と私は尋ねた。

 ファラは「それでは、劇の最後に、ケニア人と難民が手を取り合うようにします」と言う。私は「二人が手を取り合うようにするためには、どんな演技を加えたらいいでしょうか?」と尋ねると、「斧を持ったケニア人が、なぜ、そのような行動を取るようになったのかを演じればいい」と、そのケニア人役を努める、ノアが言う。私は、「そうですね。それでは、具体的に、脚本に何を加えればいいですか?」と尋ね返したが、従業員たちは静まり返り、「もう、私たちのアイデアは尽きました。工場長の考えを聞かせてください」と言ってきた。

 私は、「劇というのは、主人公の日常的な生活を映し出し、その中に、自分たちのメッセージを込めるものです。ライフラインの活動を順序立てて劇にしても、そこには誰の『人生』も描かれません。例えば、斧を持ったケニア人の男性には、家族はいるのでしょうか?仕事はあるのでしょうか?彼に、ヤギが50匹いたとし、46万人の難民が彼の村周辺に押し寄せ、たくさん木々を伐採したため、ヤギの餌がなくなり、ヤギがバタバタと死んでいった。それによって、彼の生計は圧迫され、子供に十分な食料を購入できず、一番小さな子供が栄養失調でなくなり、彼は精神的に不安定になり、斧を持って難民を襲う様になってしまった。そんな、彼の人生を劇で描けば、間接的に、環境の大切さを伝えることができるのではないでしょうか?」と説明した。

ファラは「それは良い考えです」と返答したが、他の従業員たちは、「あと1日しかないのに、これじゃ、一からやり直しだ」と唖然とする者もいた。

難民とケニア人の間にある亀裂は深い。難民は、ケニア人、難民と同じ仕事をしても数倍の給料を貰うことができ、 昨年末、治安悪化でケニア警察が難民に暴力を振るったり、日常的にキャンプの外に出る自由を与えないなど、同じ人間として扱ってくれないと非難する。一方、ケニア人は、難民は水、食料、教育、医療を無料で提供される上に、木々を切るなどして、自分たちの生活を脅かすと非難する。

双方の立場はよくわかるが、私は、これは不毛の議論にも聞こえる。選挙の度に、ケニアの政治家がキャンプで市民権を配り、自分に投票させてきたことから、ケニアの市民権を持つ難民は万単位でいる。さらに、ダダーブ周辺はソマリ系ケニア人が住み、外見は難民と変わらないため、難民の食料配給カードを持つケニア人もまた、万単位でいるだろう。30以上の援助団体がいるおかげで、何千という就職口がケニア人に開かれ、ダダーブにはケニア全土から仕事を求めてやってくるケニア人がいる。

少し、話がそれてしまったが、従業員たちが、本気で「相互理解」を求めるなら、この劇を機会に、少しでもケニア人の立場で考えられるようになってほしかった。そうすれば、「ケニア人」と「難民」の間にある線も、実は、彼らが思っているほど、明確なものではないことに気付くかもしれない。
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プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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