初めての入院


4月6-9日のイースター休暇に、ケニア最高峰のケニア山(5200メートル)に挑戦した。3泊4日の行程で、私と妻、他の友人3人の計5人で参加。旅行会社を通して、私たち一行には、案内人2人、料理人1人、荷物運び屋7人、計10人のケニア人が付き人として付いた。

大学時代に、賭博付けの日々を送っていた自分は、本当の幸せを探るため、ラッセルの「幸福論」を読み、「人間にとって最高の余暇の過ごし方は登山」と書いてあったのを鵜呑みにし、以来、ハイキングや登山をするようになった。しかし、前回の登山は、2008年の愛媛県石鎚山(1900メートル)。多少、不安はあったが、欧米のバックパッカーが普通に登っているという話を聞き、「まあ、大丈夫だろう」と軽い気持ちで臨んだ。

ナイロビから車で約3時間かけて標高2300メートルの麓まで行き、初日の3時間10キロの行程は、難なく終える事ができた。「荷物運び屋なんて雇って、金の無駄遣いだったな !」と、私はいつもの様に、調子に乗っていた。

二日目、3200メートル地点から4200メートルの7時間の行程。前半は、いつも通り友人たちとゲラゲラ冗談を言い合い、高山植物と記念撮影するなど、楽しい一時を過ごしていた。しかーーし!3時間経過したころから、両足が重く感じるようになり、声を出すのが億劫に。友人たちの歩くペースがとても速く感じるようになった。昼休憩では、すでにくたくたで、案内人の「食べたらすぐ出ますよ」の声が、体にずしんと響く。それまで余裕しゃくしゃくの発言ばかりをした手前、「ちょっと疲れました」とは、口が避けても言えない。試しに、「Mさん。大丈夫ですか?」とさりげなく、休憩時間を伸ばそうと試みるが、「え?全然、行けますよ」という残念な反応、、、。

休憩後は、MさんとOさん男性二人のペースはスーパーマン並になり、遠い彼方の存在に。案内人は「ちょっとペースが下がってます。天気が心配なので、できるだけ速いペースの方がいいです」と、とても残酷な一言が。

そしたら、本当に雪が降ってきた!頭と足がふらふらで休憩したいけど、
休憩したら、汗が冷えて寒気が走る。もう、どうすることもできない。人間なんて、自然の中に入り込めば、とても弱い存在だということを体で痛感する。

辺り一面真っ白になる中、「ここは根性だ!」と自分に何度も言い聞かせる。ほとんど登山をしたことのない妻のペースに着いて行くことさえできない自分が情けなくて仕方ない。荷物運び屋のおかげで、自分が持っていたのはカメラの鞄だけだったが、もうそれすら、持っているのが辛い。案内人のピーターに「カメラお願い」と頼むと、二言返事で了承。もう、彼が私にとっての神様だ。

「あの登り坂を登れば、ほとんど終わりですよ」というピーターの声を頼りに、一歩一歩坂を登る。雪で足が冷える。数時間前まで「天空の城ラピュタみたいですね」と景色を楽しんでいたのが、もう、大分昔のことのようだ。

ようやく、登り坂を終え「もう着いた?」とピーターに尋ねると、「あの建物です」と彼が指差した先は、まだ500メートル以上ある遠い彼方の世界だった。もう、30秒歩くごとに、30秒の休憩を取りながら、ピーターの済ました顔だけを頼りに歩いた。

山小屋に着き、そのままベットに倒れ込んだ。びしょびしょになった下着を変え、二つの寝袋を体に巻きつけた。「ポップコーンとお茶の用意ができました」という案内人のかけ声にも反応できなかった。

晩ご飯は美味しい魚フライだったが、ほとんどのどを通らず、パイナップルとオレンジだけ食べることができた。次の朝3時、山頂を目指すことになっていたが、私は、「無理です」と辞退し、山小屋で待機することに。
夜中、うなされて目が覚めると、妻が、「すごい熱」と私の額を触っていた。トイレに行くために立ち上がると、めまいに襲われ、ベットを手すり代わりに歩き、5メートル先のトイレに行ったが、なぜか、尿が出ない。

朝7時半ごろ、妻に起こされる。「早めに出ないと、下山できなくなる」と言う。しかし、5メートル先のトイレに行くのが辛い自分が、どうやって14キロの登山道を歩くというのか?全く、自信がなかった。試しに、山小屋周辺を歩いてみたが、20メートル歩くのがやっと。めまいと発熱で、気力が出てこない。案内人たちは、「酸素不足でめまいが生じているだけで、少し標高が下がれば、元気になるよ」と励ましてくれるが、14キロ歩く自分が全く想像できない。

ダダーブという医療施設が充実していない所で働いているため、しっかりした民間保険には加入していた。加入する際、「僻地での緊急事態で、飛行機やヘリなどでの救助も保険でカバーされること」を条件で加入したのを思い出した。「ヘリなどでの救助はできないか?」と尋ねると、案内人たちは、「とりあえず、聞いてみる」と山小屋に設置された固定電話で連絡を取った。

そしたら、「ヘリは天候が良ければ来れるそうです」とのことで、私は「念のため、保険が適用されるかどうか確認したい」と、私の保険会社に連絡するようお願いした。そしたら、ツアーを企画した会社社長から電話で、「もう、ヘリは飛んで行ったぞ!」との電話が。私は、「とりあえず、保険会社と連絡取り合って!」とお願いした。数分後、社長から電話で、「保険は適用されないらしい」という返答が!私はすかさず「ヘリを止めてくれ!」と発声した瞬間、山小屋の上空から「パタパタパタ」とヘリのプロペラの音が!!私は、社長に「ヘリ代は?」と尋ねると、「3000ドル(約25万円)」。ああああ。3000ドル払うくらいなら、死んでも、歩いて降りようとするだろう。絶対絶命だ。しかし、もうヘリは来てしまった。「帰ってくれ」とも言えない。

ヘリが着地し、山小屋に泊まっていた登山者数十人は、一斉にヘリの周りに集まり、記念撮影を始めた。パイロットが、「君が病人か?」と尋ねて来て、頷き、荷物を持って、妻と二人でヘリに乗り、数十人の野次馬たちに見送られながら、上空へ飛び立った。初めてのヘリで、乗客は皆、ヘッドフォンをすることが決まりになっていることさえ知らなかった。ヘリからの壮大な景色を前に、私はカメラに手を伸ばす気力さえなかった。3000ドル、どうしようーー。

山麓近くの病院に運ばれ、「高山病」と診断。すぐ、酸素マスクを付けてもらった。本来、酸素レベルが90以上はるはずが、私の体には80前後しかなかった。医師から「とりあえず、1日入院ね」と言われ、人生31年目で初めての入院が決まった。

まず、保険会社の担当者に電話。そしたら、案の定、「4000メートル以上に行くということは、その行いに危険が伴うということを自覚していながらの行為とみなされ、保険は適用されない。山登り、バンジージャンプ、スカイダイビングなどが例」という。私は、電話口で声を張り上げ、「ダダーブで働くことだって十分危険でしょ!それを自覚して活動し、事故、事件に巻き込まれても、保険が適用されるのに、なぜ山登りはだめなんだ!」と。しかし、向こうの答えは変わらず、私はあきらめるしかなかった。

酸素吸入したら、一気に食欲が出てきて、チキンカレーを食べ、体調は快方に向かった。しかし、夫婦共々、3000ドルの事が頭から離れず、妻は、「本当は、下山できたのではないか?」と疑問を投げ始め、私は「病人の私を責めることはしないでほしい」などと、口喧嘩に。

登山に行く荷物しかないため、本もパソコンもなく、病院の個室で妻と二人で何することもなく、時間を過ごし、次の日の朝、晴れて退院。ナイロビの自宅に着いたのは午後2時ごろ。

「本当に大きな問題というのは、お金で解決できない問題のことをいう」。昔、カジノで負けた時に自分で作った慰め言葉を自分に言い聞かせながら、ベットに入り込み、昼寝を始めた。
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まとめteみた.【初めての入院】

4月6-9日のイースター休暇に、ケニア最高峰のケニア山(5200メートル)に挑戦した。3泊4日の行程で、私と妻、他の友人3人の計5人で参加。旅行会社を通して、私たち一行には、案内人2人、料理人1人、荷物運び屋7人、計10人のケニア人が付き人として付いた。大学時代に、賭...

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so sorry about that

お疲れ様です。

あららら。
ヘリ代・・・・・・・高いですよね・・・・・・

でも、高山病は、とにかく、早く海抜0に近いとこまで下がることが優先されますから。
命を落とす方もいますからね・・・・

山行く時は、3000m級以上であれば、1日水分を最低3ℓは飲むようにしてないと、血液中の酸素が下がります。

あと、寒さも手伝ったんでしょうね・・・・・・

でも、今は、元気そうなので、何より。
良い思い出、としておきましょう♪

No title

それはそれは大変だったね。。。
うん、そこまでいったらお金じゃないよ。
体優先!!!ご無事でなによりです。
Your wifeも一緒でよかったね。

No title

みやびさん、ありがとうございます。永遠のネタとして使おうと思います。アイココさん、確かに、1人で入院してたら、精神的に辛かったと思います。ありがとう。
プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

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