降格人事ー続編ー

先日、主任から副主任への降格人事を告げられたアダン。彼の私に対する怒りは収まらない。

4月19日、配布された七厘がしっかり使われているかどうかのモニタリング(調査)をアダンとモウリドとやった。3月下旬に、モニタリングをする手順を書いた説明書をアダンらに渡し、半日に渡って、説明をした。その成果を知りたかった。

ライフラインに入って、モニタリングがとても敏感な作業だと痛感した。うちの従業員は、自分たちが作った七厘について問題があるなんて思いたくない。そんな事を言えば、ドナーから見放され、仕事を失うことを恐れる。受益者側も、無料で七厘をもらっておいて、それについて文句はいいたくない。文句を言えば、次から七厘を配布してもらえない恐れだってある。だから、私が工場長に就任した当初、モニタリング報告書には、すべての受益者が私たちの七厘に「満足」をしていると、記録されていた。

しかし、私が実際、モニタリングに同行してみると、報告書とは全く別の現実がそこにはあった。「この七厘の形では、ウガリ(ケニアの主食)を料理するのが難しい」という意見が多く聞かれたのだ。ウガリは、トウモロコシ粉などを混ぜて作り、とても粘っこく、長い時間かき混ぜなくてはいけないため、私たちの七厘の形では、ウガリを混ぜる際、鍋が固定されにくいということだった。

私は、モニタリングを行う際の方法を変えれば、受益者も本音が言いやすくなるだろうと思い、細かく手順について書かれた説明書を作った。これまで、従業員たちは、「モニタリングに来ました」などと挨拶をし、「七厘はどうですか?」などと聞くだけだった。そこで、説明書では、「笑顔で自己紹介した後、『私たちは、将来、さらに良い質の七厘を皆さんに配れるよう、現在の七厘について調査をしております。皆さんの七厘についての感想は、私たちにとって良い参考になるので、是非、協力していただけないでしょうか?』と言う」など、目的を明確化させ、受益者が本音を言うことが、彼らにとっての利益になるということを伝えるようにした。

そしたら、効果は的面。「薪を入れる枠が小さい」「薪に点火しにくい」「壊れやすい」「背が高く、幅が小さい」などなど、様々な問題が浮上した。

 今日は、アダンが、説明書に書かれた手順に従ってモニタリングをするかどうか、確認したかった。

 2ヶ月前に七厘を受け取ったと言う20代女性の家に行き、アダンは話しかけた。「七厘はどうですか?」「私たちの七厘で何でも料理できますか?」

 肝心のモニタリングの目的について話していない。表情も強ばっている。受益者の女性の表情も固い。説明書が手元にあるにもかかわらず、アダンはそこに書かれた質問のいくつかも飛ばしている。

私は、その後、満面の笑顔で、女性に自己紹介をし、目的を話した。そしたら女性の表情も少し明るくなり、アダンにした説明よりもさらに詳しく、七厘が抱える問題について聞く事ができた。

女性にお礼を言い、アダンとモウリドと日陰に入って反省会をした。私は、主任が、一ヶ月前に配った1ページ半の説明書通りに仕事をすることができないことに苛立った。アダンは、それを十分に自覚しているようで、「この説明書はまだ一回しか目を通しておらず、すべてを覚えきることはできませんでした。それに、この説明書を受け取ってから、私は1度もモニタリングをしてきませんでした」と弁明した。

私:説明書は一ヶ月前にあなたに渡したのに、なぜ、一度しか目を通していないのか、私には理解ができない。先週、副主任に降格させると言った時、あなたは「自分のどこがいけないのか?」と言っていました。1ページしかない説明書すらまともに目を通すことができないで、どうやって、他の従業員を指導する立場にいれるのか?

ア:これまで、私は、工場長からたくさんの説明書を配られ、頭がパンク状態になっていました。まともなアシスタントもおらず、「あれやれ」「これやれ」と言われ続ける。工場長が、私をこの工場から出て行かせたいなら、出て行きます。もう、これ以上、私の頭を混乱させるのは辞めてください。

私:私の言い方に問題があるのなら謝ります。しかし、工場長として、あなたの上司として、モニタリングの質を上げようとするなら、説明書を書いて、それをあなたに半日かけて説明をし、実際にモニタリングに同行する以外に、どんな方法があるというのですか?説明書作成だって、これまで私が見た体験を基に書き上げた、いわば、私がライフラインに入って活動した集大成です。それだけ私が時間を割いてきた目的が、あなたを工場から追い出すことだと本気で思っているのですか?あなたが私だったら、一体、従業員の仕事ぶりを見る以外にどうやって、従業員の能力を高めようとするのですか?

ア:工場長は、私の英語力が低いという理由で主任から降格させた。英語力が低いなら、まず、英語を教える塾に通わせるとか、時間をかけて、その人の能力を高めようとするのではないでしょうか?小学校だって、1年、2年、3年と順を追っていく。いきなり4年生からスタートはしないでしょう。

私:あなたを降格させたことについて、私はあなたの英語力については一言も言及していません。作り話で私を非難することだけはやめてください。議論がさらに感情的になってしまいます。もう一度、質問します。あなたがわたしだったら、一体、どんな方法で、従業員の能力を高めようとするのですか?

ア:工場長は、今日、一緒にモニタリングをする前、「あなたの能力を伸ばすため」と説明をしてくれなかった。私は、一つでもミスを犯したら、今度は、副主任の座から降格されるかもしれないと、恐れで一杯だった。

私:こちらのコミュニケーション不足なら、謝ります。でも、これまで10ヶ月間、あなたと一緒に働いてきて、様々な研修やワークショップを催し、ミーティングを催し、従業員の人材育成に大きな時間を割いてきた私が、本気で、あなたを苦しめるために、こうやってモニタリングに同行していると思っているのですか?治安悪化で、外国人援助関係者がキャンプ内をあまり移動できない中でも、私はこうやってあなたに付いてきている。自分の身の危険を犯してまで、あなたを苦しめる理由が、私にあると思いますか?

ア:、、、、。わかりました。これから、説明書をしっかり読んで、努力します。

私:この前は、言いませんでしたが、こちらにミスがあったのは確かです。本来、主任という職は、投票で選ばれるものではありません。従業員たちからの人望があるからといって、その職に適した資質があるとは限らないからです。だから、あなたが主任になり、本来、あなたが持っている能力以上の責務を課してしまっていたことは事実だと思います。それについては謝ります。

ア:いえ。私の能力に問題はないと思います。

私:でも、実際、自分で頭が混乱していると言っていたじゃないですか。

ア:休みがなく、助手もおらず、すべて1人で抱え込まなければいけなかったからで、実際の仕事はしっかりこなせる自信はあります。

私は、彼のプライドをこれ以上傷つけることはしたくなかったので、そこで議論を終わりにした。彼の「小学校」を比喩した表現は、ある意味、的を得ていた。「主任」のポストが中学生並みだとすれば、アダンはまだ、小学校3年生並みで、明らかに、不釣り合いだった。しかし、アダンが立派な主任になるまで、3年、4年かけられる余裕はなく、外部の中学生を呼ぶ以外に方法はなかったのだ。

七厘の生産が頓挫している今こそ、アダンに休暇を与える絶好のチャンスだと思い、モウリドに「1週間ほど休ませて、少し、頭の混乱から解放させてあげよう」と提案した。

工場Aの元主任のラホも、私が彼女の仕事ぶりを観察するのをとても嫌がっていた。おそらく、私の接し方にも多いに問題があるのだろうな。モニタリングと同様、しっかり目的を話し、彼らのプライドを最大限に守れる形でやらないといけない。能力開発って難しいな。
スポンサーサイト

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめteみた.【降格人事ー続編ー】

先日、主任から副主任への降格人事を告げられたアダン。彼の私に対する怒りは収まらない。4月19日、配布タリング(調査)をアダンとモウリドとやった。3月下旬に、モニタリングをする手順を書いた説明書をアダンらに渡し、半日に渡って、説明をした。その成果を知りたかっ...

まとめteみた.【降格人事ー続編ー】

先日、主任から副主任への降格人事を告げられたアダン。彼の私に対する怒りは収まらない。4月19日、配布タリング(調査)をアダンとモウリドとやった。3月下旬に、モニタリングをする手順を書いた説明書をアダンらに渡し、半日に渡って、説明をした。その成果を知りたかっ...

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

seventh star 7

Author:seventh star 7
黒岩揺光  
1981年、新潟生まれ。7人兄弟の末っ子。15歳で米国留学して以来、住んだ国は計8カ国に。海外生活計17年。日本では毎日新聞記者、アフリカでは難民キャンプの工場長、アゼルバイジャンで主夫、ジュネーブで国連職員などを歴任。現在は中東ヨルダンで妊娠した妻に寄り添う専業主夫。
 著書に「僕は七輪でみんなをハッピーにしたい」(ユーキャン)「国境に宿る魂」(世織書房)。
メール連絡先 yokuroi×hotmail.com (「×」を「@」にしてください) ツイッター:@YokoKuroiwa

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR